子供の安全を科学する ~産業技術総合研究所の取り組み~
セコムの舟生です。
子供の死亡原因について調べてみると、先天的なものの影響を受ける1歳未満を除くと、1歳から19歳までの死因の第1位は不慮の事故です。「経済産業省の子供の安全への取り組み<その1>」でご紹介した、経済産業省 製造産業局デザイン・人間生活システム政策室 室長補佐 諸永裕一さんとのお話にもありましたが、子供の事故が起きると「子供に注意を向けていなかった親の責任」のほうへ目が向けられがちです。しかし、それでは事故防止の根本的な解決にはなりません。
今回は、事故サーベイランスプロジェクトに携わった研究者、独立行政法人産業技術総合研究所・デジタルヒューマン研究センター 主任研究員 本村陽一さん、人間行動理解チーム長 西田佳史さんにお話を伺います。
■事故サーベイランスプロジェクトの発足
舟生:子供の事故を研究するキッカケは、どのようなことですか?
本村さん:公園の遊具やエスカレーター、家庭内で、同じような内容の事故が、毎年発生しています。子供が犠牲になる“不慮の事故”について、日本には子供の事故予防のための情報収集システムがなく、保護者の“不注意”ということで済まされていました。そのような中、2004年3月に自動回転ドアに挟まれて子供が死亡する事故が発生し、不慮の事故に対する調査研究の必要性を感じた産官学民から集まったメンバーによって2006年5月に自発的に発足したのが「事故サーベラインスプロジェクト」です。
西田さん:そのような中で、2005年10月に北九州にある公園で5歳の幼児が滑り台の螺旋階段途中から落下し、腎臓に損傷を生じるという事故が発生しました。我々は実際に現地に赴き、ご家族からの聞き取り調査を行い、現場でダミー人形を使用した事故再現し、データを収集しました。それから研究所内にまったく同じ遊具を再現し、同年代の子供がどのように遊ぶかの検証。現地でのデータと合わせて安全性を高める方法を導き出し、結果を自治体に報告しました。
本村さん:この事故調査研究の結果から、子供を安心して育てられる安心安全な社会を築くためには、事故情報を知識として蓄え・創造・伝達するネットワークなど、多様な予防活動を行っていく仕組みの創造など、新たな課題が生まれました。
■乳幼児の事故を予防するため、日常行動をモデリング
舟生:こちらの研究室では、どのような研究が行われていますか?
本村さん:臨海副都心センター内にある研究室内では、住宅内における乳幼児の事故予防を目的として、乳幼児の行動や、その行動に起因する事故原因の発生メカニズムを解明する研究を行っています。
西田さん:室内で発生する9カ月~2歳の乳幼児の事故をコンピュータ上で再現・可視化するため、研究所内にトイレやお風呂などの居住スペースを本物そっくりに構築して、実際に乳幼児と保護者の方に被験者となってもらい、行動計測や行動シミュレーションの研究を行っています。居間を想定した、家具やテレビ、玩具などが置かれた生活空間を模したセンサルームでは、モデルのお子さんと保護者の方に行動データを記録するための小型装置を取り付けてもらい、センチメートルの精度で行動計測できる超音波式位置計測システムで、乳幼児や母親の行動を観察します。この調査は、実際に事故を起こさせる実験ではなく、乳幼児がどんなモノに、どのように興味を抱くのか、どのように行動するのか、などを調査するための計測です。
舟生:データは、どのように活用されるのですか?
西田さん:これらの乳幼児の行動データと、病院で収集された事故情報を組み合わせることで、典型的な乳幼児の行動や事故状況を再現するためのコンピュータモデルを作っています。これは、育児に関わる人たちや製品開発に携わる設計者のために活用されるものです。たとえば乳児がどんな行動をするのか、シミュレーションをアニメで再現して、子供が起こす可能性のある事故を保護者などにも理解しやすくすることができます。これら被験者のデータは、乳幼児の行動に関する研究、および、その成果発表のために使われ、各被験者の個人情報が発表されることも、各被験者のデータが、個人を特定できるようなかたちで発表されることもありません。
舟生:今後の展望についてはいかがですか?
本村さん:2006年3月26日に事故サーベイランスプロジェクト報告書を発表し、このプロジェクトは解散しています。それ以降は、企業や病院、キッズデザイン協議会などと一緒に、引き続き、子供の安全に関する共同研究を行っています。今、注目をしているのは、子供が集まる公共のスペースである公園です。子供の防犯・安全に力を注いでいるセコムさんとも、ぜひ、一緒に共同で研究を行っていきたいと考えています。
次回は、11月2日(木)に記事アップ予定です、お楽しみに。
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